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【感想】ゲノム編集食品の意見交換会に参加してきました。

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健康や環境へのリスクが指摘されるゲノム編集食品

今回、省庁が主催する「意見交換会」に参加してきました。

www.maff.go.jp

結論から言うと、流通開始への不安が強まったと言わざるをえません。

今回は、意見交換回の概要と自分が疑問に感じた点を挙げたいと思います。

※なお、当日のことはニュースでも取り上げられました(ゲノム編集食品“必ず表示を”|NHK 関西のニュース*1)。

▶概要

  • 参加者:100名以上(ビジネス:一般=9:1、ほとんどが男性)
  • ホスト:大学教授、厚労省・農水省・消費者庁の担当者各1名
  • 進行 :14:00〜16:00(最後の30分が質疑応答)
  • 質問 :6-7名が発言。ほとんどが流通への懸念を表明。

 

▶ホスト側の説明の概要

  • ゲノム編集と従来の育種方法との比較
    (「外来DNA」を挿入しなければ、従来の育種方法と区別できない
  • ゲノム編集と組換えDNA技術との違い
    (=外来DNA残存の有無)
  • 厚労省・農水省による規制内容案の発表
    (開発者からの情報提供は「義務ではない」。)
  • ラベル表示の方針は未定
    (消費者の意向・制度の実効性・国際整合性のバランスについて課題を示すのみ)
  • 規制案を読むと、最終決定ではなく「今後の見直し前提」=当座の間に合わせという印象が強い

 

▶「健康リスクは認めるが、恐らく安全」の不可解さ

1. 厚労省の矛盾

一番理解に苦しんだのが、安全評価に関する厚労省の説明です。

ポイントはこの4つ:

  1. 健康リスクが今後判明する可能性は十分にある
  2. しかし、 その可能性は非常に低い(1.と矛盾)
  3. 理由(1)従来技術でも健康リスクは起こりうるものの、実害は発生していないから
  4. 理由(2)ゲノム編集実施〜流通までのプロセスで「選抜(=外来遺伝子・オフターゲットの除去)」されるから

 

(なぜ従来育種と同列に扱うのか?)

「理由(1)」については、ゲノム編集と従来技術を同列にあつかうという前提がそもそも不思議です。

ゲノム編集は、細胞の内部でDNAを操作する技術(CRISPR-Cas9などの改変ツールを細胞に直接入れる)。一方、交配などの昔からある方法ではそうした操作は行いません。

後述のように、狙い通りに編集しても予期せぬ変異のおこる可能性が指摘されています。

こうした前提条件の問題を置き去りにして「安全」の結論を出していいのでしょうか?

 

(厚労省の資料原文)

配布資料の原文を、改行と太字を加えて下記に引用します。ぜひお読みください。

(PDF版のオリジナルはこちら:

厚労省「ゲノム編集技術を利用して得られた食品等の食品衛生上の取扱いについて」p.2)

オフターゲット等で、当代においては検知されない読み枠のズレによる何らかの人への健康への悪影響が発生する可能性は十分に考慮する必要があるが、

同様の影響が想定される従来の育種技術を用いた場合においても、これまで特段安全上の問題が生じていないこと、

さらには品種として確立するための継代、育種過程における選抜を経ることを踏まえると、

そうした影響が問題になる可能性は非常に低いと考えられること。 

 

2.オフターゲット評価の統一基準はない 

また、「理由(2)」で戻し交配によるオフターゲットの除去を挙げていますが、この前提となる条件にも問題があります。

まず説明しておくと、オフターゲットとは「DNAの編集ミス」のこと。

これは細胞内に入れる編集ツールが多いほど発生しやすいと言われますが*2、問題はオフターゲットの有無や数を評価する統一基準がまだ整っていないこと*3

そのため、たとえ「開発〜発売までの間にオフターゲットを除去します」と言っても、どれだけ精密に調査したかは開発者によって違うことになります。統一基準がないということは、そういうことなのです。

日々リスク除去に取り組む科学者の努力はすばらしいと思います。ただ、省庁はこうした技術的制約をまず説明すべきではないでしょうか?

「安全」と結論付ける理由の土台に、問題が山積みなのです。

 

3.狙い通りカットしても想定外が起きる

また、ゲノム編集には当初予想されていなかった課題も明らかになってきています。

それは、狙った場所でDNAをカットしても想定外のタンパク質が発現するということ*4

理化学研究所は、この発見により未知の細胞内システムの存在が示唆されると述べています。

ゲノム編集は、遺伝子組換えに比べると格段に精度の高い技術。しかし、それでも2012年の発表(CRISPR-Cas9の場合)からまだ8年しか経っていない2020年現在、「想定外」が出尽くしたとは到底考えられません。

 

消費者の慎重意見に対し「科学者を信用すればよい」と言う専門家もいますが、信用に値することを示すためにも、こうした素朴な疑問に丁寧に答える姿勢が必要ではないでしょうか。

 

▶省庁間の連携が不透明

また、最後まではっきりしなかったのが「各省庁はどのように連携し、消費者の権利・安全を確保するのか」という点です。

例えば消費者庁は、ラベル表示について「食品メーカーが原材料をゲノム編集品かどうか知ることができなければ、表示は不可能だ」と言います。

しかし、そういった情報は厚労省や環境省に提供されることになっているうえ(あくまで任意ですが)、情報提供に該当するかどうかの基準も彼らのルール作り次第です*5

そういった意味では、「事業者が情報を得られない→ラベル表示できない」ではなく、そもそも事業者が情報にアクセスできる仕組みを作ってほしいと思います。そして、こういったシステムは省庁の連携しだいで十分可能なはずです。

縦割り行政の影響で連携が取りづらいのだとしても、ゲノム編集技術のように省庁をまたぐような課題には特別な対処を期待したいところです。

  

▶「今夏流通」なのに「表示方針は未定」 

消費者庁の説明

そして、消費者にとって最大の関心事である「ラベル表示」についても、実際にどうなるのか分からぬままでした。

消費者庁は

  • 消費者からは「ラベル表示希望」の声が多数
  • しかし、事業者からはコストや手間を懸念する意見も
  • 表示を義務化しようにも、ルール違反を特定する仕組みがなければ困難*6
  • 国際整合性」を重視する必要あり
    (EUでは規制対象だが、表示基準は未定。米国では表示不要)

と紹介するのみ。

 

なぜ消費者の意向を優先しないのか?

しかし、消費者の多数意見*7は「ラベル表示希望」であり、かつ消費者庁自身も「消費者の合理的な食品選択の自由は担保されるべき」と言っています。

ならば、「国際整合性」は当然重視するにしても、自分たちが守るべき消費者=自国民を最優先とするのが当然ではないでしょうか?

また、繰り返しになりますが、事業者の負担に配慮するのであればラベル表示をするための制度作りに尽力するのが本来ではないでしょうか?

 

給食に導入されたら?

このままなし崩し的に「無表示での販売」が解禁されてしまえば、私達は知らず知らずのうちにゲノム編集食品を買ってしまうでしょう。(※追記:2019年10月にゲノム編集食品の登録申請開始。流通が認められました。)

そして、保育園や学校の給食に導入されてもおかしくなりません。普通の食品として出回るため、これは決して根拠のない話ではないのです。

これは、ゲノム編集食品を避けたい人にとっては、「食べたくないものを買わない・食べない・食べさせない」という選択の自由が奪われる状態にほかなりません。

私たち消費者は、こういった環境に置かれたことをまず認識する必要があります。

 

▶流通凍結という選択肢はないのか

「リスク承知で解禁」の本音

ここまで見てきたように、意見交換会からは何の安心材料も得られませんでした。

厚労省の担当者は「一般の方に安心してもらえるよう、分かりやすい説明をしたい」と仰っていましたが、参加者からの質問に論点をずらして回答する場面も多く、政府の掲げる「リスクコミュニケーション」からはほど遠い現状を目の当たりにした格好です。

 

見切り発車するぐらいなら凍結を

しかも、流通のめどを今年夏(=もう1〜2ヶ月しかない)と定めているにも関わらず、制度づくりはまだ途中*8

こういった状況では、解禁前提で議論するよりも、むしろ流通自体を凍結すべきではないでしょうか?そうすれば、国は「何がなんでも夏までに解禁したい、そのためにルールを間に合わせたい」という苦しい状況を回避できるのです(実際、お役所はとても苦慮されていると思います。お察しします)。

そしてもちろん、私達も安全性の心配なゲノム編集食品を食べずに済みます。

 

今回の意見交換会は、平日の日中という参加しづらい日程でした。

しかし、政府側の「空気」を感じられたこと・私と同じく疑問を持つ消費者の声を聞けたことは、今後この問題を考えるうえで大きな収穫だったと感じます。

今後も、もし機会があれば同様の会に参加したいです。

 

▶関連パブリックコメント

なお、本件に関して、厚労省・農水省はパブリックコメントを募集中です。

どちらも、〆切まで2週間以上。個人名・住所を入力しなくても、意見提出は可能です。私は提出します。

 

1.厚労省あて

〆切:7月26日

「ゲノム編集技術応用食品等の食品衛生上の取扱要領(案)」及び「届出に係る留意事項(案)」に係る御意見の募集について

search.e-gov.go.jp

 

2.農水省あて

〆切:7月29日

「農林水産分野におけるゲノム編集技術の利用により得られた生物の情報提供等に関する具体的な手続について(骨子)(案)」についての意見・情報の募集について

search.e-gov.go.jp

 

※2020年2月21日追記

こちらのパブリックコメントには、それぞれ300件を超える意見が寄せられ、その大半は「安全性への不安」や「表示徹底の要請」を訴えるものでした(下記リンク=結果公示に詳細あり。)。

ところが、これらの声を無視したまま、2019年10月に各省への登録申請が開始。いつゲノム編集食品が流通してもおかしくない状況となりました。

今後は、「店頭に並んでいるから安全」ではなく、食品を買う私たちひとりひとりが食品を吟味する時代となります。

とても労力のいることですが、諦めるのはまだ早い

ひとりぼっちでは難しい仕事でも、力を合わせればできることもあります。このブログでも、具体的にやれることを発信していくつもりです。

おたがい、頑張りましょう。

 

▶参考書籍

最後に、ゲノム編集の食品応用問題を考えるうえで役立つ参考書籍をご紹介します。

どれも私自身が読んだもの。

遺伝子組換えにかんする本も、ゲノム編集同様、バイオテクノロジー利権の構造を理解するのに役立ちます。

ぜひ読んでみてください。

ゲノム編集を問う-作物からヒトまで (岩波新書)

ゲノム編集を問う-作物からヒトまで (岩波新書)

  • 作者:石井 哲也
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2017/11/16
  • メディア: Kindle版
 

 ※慎重派意見。

 著者はゲノム編集技術の推進自体には賛成する一方で、

 食品応用のための制度作りに欠陥があることを指摘。

 技術の限界(オフターゲット)をふくめたゲノム編集の解説や、医療応用の現状も詳しく解説。

 

ゲノム編集からはじまる新世界 超先端バイオ技術がヒトとビジネスを変える

ゲノム編集からはじまる新世界 超先端バイオ技術がヒトとビジネスを変える

  • 作者:小林 雅一
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2018/03/20
  • メディア: 単行本
 

 ※推進派。

 オフターゲット等のリスク面はほとんど言及せず。

 ゲノム編集ツール開発の裏側や、政府の進める(いわゆる)「リスクコミュニケーション」の手法を理解するのに役立ちます。

 

遺伝子組み換えのねじ曲げられた真実

遺伝子組み換えのねじ曲げられた真実

 

※モンサント訴訟の原告のひとりによる大著。 

 遺伝子組換え技術のリスクだけでなく、政府・メディア・科学者・メーカーが束になって危険性を隠蔽してきた事実を暴露する本です。

 バイオテクノロジー利権の知識の下地として必携。 

 

遺伝子組み換え食品の真実

遺伝子組み換え食品の真実

  • 作者:アンディ リーズ
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2013/02/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 ※こちらは遺伝子組換え食品のメディア戦略に詳しい本。

 メーカーによるイメージ戦略など、日本のメディアを読み解くうえでも参考になります。

*1:

2020年2月現在、上記リンクは削除済みです。

ただ、当日は会場の外にNHK職員が控えており、会を終えて出て来た参加者にマイクとカメラを向けていました。

*2:

河田昌東(2018)「ゲノム編集におけるオフターゲット発生の必然性について 」/a>

2020/2/21閲覧。

*3:

kokocara.pal-system.co.jp

2020/2/21閲覧。

*4:

www.riken.jp

「これまでゲノム編集は、オフターゲット変異(ブログ管理者註:狙った場所以外でDNAがカットされてしまうこと)を起こさないよう改良が進められてきました。

一方、本研究では、標的とするゲノム領域に狙い通りの突然変異を導入しても、想定外の標的タンパク質発現が生じる例を示しました。研究チームの発見により、“ゲノム編集技術を用いて遺伝子のノックアウトを行う際、標的とするDNA配列を調べるだけでなく、標的タンパク質の発現が消失することも慎重に解析することが重要であること ”が明らかになりました。」2019/7/8閲覧。

*5:現時点では、高度精製添加物はたとえゲノム編集食品由来であっても情報提供する必要がありません。これって、すごく怖くないですか?

*6:ですが、上述のとおり、現時点ではゲノム編集かどうかの情報提供は「任意」です。そのため、消費者庁が調査しようとしても、正確な情報入手には限界があると考えれます。

*7:あくまで消費者庁の配布資料に記載されたパブリックコメント等での意見ですが。

*8:意見交換会が行われたのは2019年7月上旬。一方、「流通時期」として伝わっていたのは「2019年夏」でした。つまり、流通時期だけが先に決まっており、それに合わせて制度づくりを間に合わせていたことがよく分かります。