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農薬とどう付き合う?~規制と安全性から考える未来のかたち~

「答えなき問い」を考えるために農薬 安全 危険

 農薬は体に悪そう、でもどうしたらいいか分からない——こう思う人は多いことでしょう。 
 ある調査によると、7割近くが否定的なイメージを挙げていたものの、実際に意識して買い物する人はたったの4割でした*1。情報も錯綜するなか、折り合いのつけ方に悩みますよね。
 そこで今回は、私が実際にどう農薬と付き合っているかご紹介します。なぜそういう方法に至ったか、また農薬について知っておきたいことも併せてお伝えします。皆さんの考えるきっかけになれば幸いです。 

農薬との付き合い方~私の場合~

基本は「有機JAS」

 基本、私は有機JAS農薬不使用を選びます。これは子どもを一番に考えてのことですが、優先するのは有機JASです。
 作物を汚染するのは農薬だけではありません。家庭や工場の排水に、ポイ捨てタバコから出たニコチン…こうしたあらゆる有害物質を規制するのは、今のところ有機JASだけです。
 あとで詳しく述べますが、今の状況ではどんな規制があっても「農薬が100%安全」とは言い切れません。そのため、疑わしきは避けるのがベストというのが私の結論です。

  • 「有機JAS」…国の定めるオーガニック規格*2。栽培中はもちろん流通までの全工程で汚染対策がされています。農薬もごく限定的にしか使えないため、総合的に見ると一番安全です。
  • 「農薬不使用」…ここでは栽培期間中は・・・・・・農薬を使っていないという意味。ただ、周辺環境からの汚染は考慮されないため、思わぬ農薬残留もありえます。

 

農薬を使ったものを買う理由

  ただ、農薬を使ったものを全く買わないわけでもありません。例えば、私の加入する生協では地場野菜を扱っていますが、1~2回散布されていることもあります。
 特に害虫の発生しやすい夏場は多くなりがちですが、だからといって返品するようなことはありません。農家さんに感謝しつつ、おいしく頂きます。
 調理については、浸透性の農薬なら除去はできませんが、皮をむくなりゆでるなり、より安全に頂ける方法を取っています。

 

「便利さ」のもろい基盤

 もちろん、安全性を徹底しようとすれば「農薬不使用だけを買う」という選択もあるでしょう。以前は私もそうでした。
 ただ、ある時から「本当にこれでよいのだろうか?」と考えるようになり、農薬を避けるだけではダメだという結論に辿りついたのです。それは、「欲しいものだけ自由に選べる」という便利な暮らしのあり方が、実はとても危うい土台の上に成り立っていることに気付いたためでした。
 そしてこれには、私自身がその「土台」をなす人々の子ども——つまり、農業人口の大半を占める兼業農家*3に生まれた身であることも関係しています。

 

兼業農家の子ども時代

 農家の子ども、と聞けばどんなイメージでしょうか?豊かな緑に抱かれて、のんびりゆったり成長し、あぜ道や畑で遊ぶわが子を親もほほえましく見守っている…そんな光景が目に浮かぶかもしれません。
 ところが、うちは違いました。
 親はフルタイムの共働き兼業農家で、平日は朝から晩まで仕事の毎日でした。やっと土日が来たと思ったら終日、農作業。他の子が旅行を楽しむゴールデンウイークも、わが家は田植えで潰れてしまう。365日、1日として「休み」というものがないのです。
 広いひろい田んぼの隅で、私は一心に働く親の姿を眺めていました。彼らも子育てを楽しむゆとりなどなかったでしょう。スローライフとは無縁の世界、それが兼業農家の現実です。

 

「必要性」という現実

 そして、彼らのおかれた厳しい状況が、農薬を必要不可欠な存在へと押し上げていることもまた事実です。高齢化もそれに拍車をかけます。
 農薬は決して安くはありません。売る側にしてみれば、使いやすさや安全性が求められるため開発コストも高く、販売にもたくさんのハードルがあります。「自家用に使ったら割に合わない」と言う人もいるほど、値段は大きな問題です。
 それでも、時間の制約というどうにもならない事実、そして「虫食いやキズは買わない」という買い手の要求をクリアしなければ、どんなに手間をかけても「売り物」にはなりません。つまり、収入にならないのです。収入にならないことは、続けることができません。
 効率よく見栄えのよいものを作るため、農薬を必要とする人もいる。そして、それは兼業化と分かちがたく結びついている…この現実は、買う側も知っておく必要があるでしょう。

 

自給率、1%!

 そして、なんとか農業を続けてきた人達も、しだいに離農する現実*4があります。これは国産の作物が減ることを意味します。
 「食料自給率」という言葉をご存じでしょうか?日本で流通する食料のうち、どの程度国内で生産されたかを示す数値です。
 カロリーベースで言うとここしばらく40%以下ですが、都道府県別での数値も出ています。たとえば、私の住む大阪府はたった1%*5という悲惨な状況で、残りの99%は他地域から運んでもらっていることになります(東京も同率最下位です)。そして、新型コロナの流行は、ことの深刻さをますます明らかにすることとなりました。

 

もう楽観はできない

 自給率の低さはかねてから問題でしたが、以前なら「日本になければ輸入しようよ」「ここに無いなら他県があるさ」と言っていられたのです。
 ところが、新型コロナはこの風潮に待ったをかけました。ヒト・モノの移動が制限され、輸出制限する国も出たことで*6そうした楽観視がもはや通用しないという事実を容赦なく私たちに突きつけたのです。
 

選択の自由を得るために

 今後私たちが食べ続けるためには、輸入ありきの考えを改め、まず国内農家さん・近所の農家さんを「買い支え」するしかありません。農薬を使ったものを買うか買わないか「選べる」ということも、農家さんがいるからこそ成り立つ贅沢なのです。
 だからこそ、私は「危険か安全か」という視点を少し離れ、やむをえない理由で農薬を使ったものは喜んで頂こうと決めました。

 

安全性をどう捉えるか?

 ただ、最初に述べたように、農薬には100%安全とは言い切れない部分があります。また「逆も真なり」で、国の規制もあり100%危険とも言えません。しかも、その仕組み=法規制には限界があります。
 つまり、私たちは毎日「白黒ハッキリしないもの」を食べていると言えますが、農薬がどれも合法である以上、何をどれだけ口にするかは個々人の判断なのです。
 ちょっとややこしいですが、こうした側面を知れば「自分なりの答え」を探しやすくなります。この安全性の捉え方について、少し掘り下げてみましょう。

 

安全性

 たとえば、農薬を安全だとする意見については「厳しい安全基準があるから心配ない」「農薬の安全性は科学的に確認済みだ」という意見がありますが、これらはある程度正しいと言えます。
 実際、農薬を勝手に販売できないようルールがあり(農薬取締法*7)、また作物への残留濃度も決められています(ポジティブリスト制度)。そして、こうしたルールを守るため、関係省庁ではじつにたくさんの人が働いています。
 ポジティブリスト制度の導入は2006年と意外に新しいのですが、こうした規制によって、確かに私たちは守られています。

 

規制の限界

 ただ、どんな規制にも限界はつきものです。もちろん農薬も例外ではありません。具体的には、暮らしの実情に即した安全検証はとても難しいという問題を抱えているのです。
 
農薬には「ヒトが食べても安全とされる量」があり、それは様々な動物実験を経てえられたものです *8。これは残留基準値の土台にもなっています。
 ただ、こうした数値が「原体」ベースである一方*9「原体よりも製剤のほうが毒性が高い」とする研究もあり*10、基準の見直しを訴える専門家もいます*11(もちろん、作物に使われるのは「製剤」のほうです)。

 

様々な制約

 また、ADIや残留基準はまじりけのない単一の農薬について安全基準を定めるものですが、一方で「一生涯、毎日たった一つの農薬しか口にしない」という生活は考えられません。私たちは毎日毎食、さまざまな添加物や農薬を食べているからです。
 環境省もこうした「複合曝露」を無視してはいませんが*12、ただ私たちがすでに天文学的な数の物質*13に包囲されている以上、実情を踏まえたルール作りはかなり困難なことでしょう。
 また、当たり前ですが人体実験もできません*14。規制はたしかに私たちを守ってはくれますが、さまざまな制約のうえに成り立っていることも同時に知っておく必要があるのです。
 

危険性

 さらに、農薬そのものの危険性も指摘されています。特にいま注目されるのが、グリホサートやネオニコチノイド系農薬に関する報告です。
 たとえば、世界的に普及したグリホサート入り除草剤については、発がん性をめぐる訴訟が12万件以上あるほか*15腸内細菌を含む有用微生物への影響が懸念されています*16
 また、髙い効果で一躍脚光を浴びたネオニコチノイド系農薬は、ミツバチへの悪影響が疑われてEUで一部規制されたほか *17、ヒトの脳神経への影響も指摘されています*18
 農薬にたずさわる方には辛い話でしょうが、こうした理由から敬遠する人もいるのです。

  

科学に立ちはだかる壁

 くわえて、科学も決して万能ではありません。国立環境研究所をはじめ、化学物質による悪影響の研究は進んでいます。ただ、それでも常に完璧に、そうした負の側面をキャッチできるとは限らない。残念ながら、これは過去を振り返っても明らかです。
 たとえば、60年代に深刻な被害をもたらしたDDTはいまPOPs(残留性有機汚染化合物)*19として廃絶に向かっていますが、当初は素晴らしい成分として歓迎されました。合成物質は研究者の努力の結晶ですが、このように後で危険性が分かるものも少なくありません。
 もちろん、同じ轍を踏まぬよう、新しい成分には配慮がされています。ただ、規制の限界もふまえれば、いま安全だからと言って将来もずっと安全とは限らないのです。


できることはまだある

 このように、私たちを守る規制には限界もあり、また科学技術もすべての危険を予測できるとはかぎりません。
 つまり、日々食べものと向き合う私たちは、不確定要素のなかどう自分なりに線引きするかという難しい課題に直面しています。それは「答えのない問題」という、実はきわめて哲学的な問いなのです。
 とはいえ、決して一人で背負い込むことはありません。農業者の皆さんや、その道の専門家に頼ることはできます。また、主婦どうしで繋がる方法もあります。話すこと、共有することの力ははかり知れません。
 「有機JASは価格的にちょっと…」という声も聞きますが、それでも少しずつ取り入れる方法はあります。日本の食環境は厳しい状況ですが、まだ諦めてはいけません。日常レベルでできることは、まだまだあるのです。

 

まとめ

 今回は、農薬との現実的な向き合い方を考えてみました。
 “You are what you eat.”(体は食べたものでできている) の言葉があるとおり、食べ物は命に直結します。それぞれこだわりもあり、農薬への考え方も違うことでしょう。時に反発しあうこの多様性こそ、しかし世界発展の礎にほかなりません。
 国の規制も、市民の声なしにはありえませんでした。また、すぐれた科学者なら、卓越した倫理観と長期的視野をお持ちのはずです。当然、農業や環境分野の知見も欠かせません。
 智恵を寄せあえば、きっと「安全で持続可能な食のあり方」に道が開けるはずです。未来への投資として、私はこれからも日本の農業を買い支えようと思います。

*1:国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(2016)「有機農産物と農薬に関する消費者意識調査」より「食の安全と農薬への意識」https://storage.googleapis.com/planet4-japan-stateless/2018/12/1a295b29-1a295b29-20160323_organic.pdf p.5。2020年6月19日閲覧、以下同。

*2:有機JASの認証を受けていないものは「オーガニック」や「有機」と名乗れません。罰則の対象になりますのでご注意ください。

*3:農水省「農家に関する統計」(https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/07.html)のうち、平成31年のデータ(第一種・第二種の合計)では兼業農家が全体の7割近くに上ります。一方、農業を主な収入とする「専業農家」もあります。

*4:農水省「農業労働力に関する統計」(https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html)参照。さらに、農地の減少も止まりません。農林水産省「農地に関する統計」(https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/10.html)、

*5:平成29年度のカロリーベースでの値。農水省「平成29年度(概算値)、平成28年度(確定値)の都道府県別食料自給率」https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/zikyu_10-7.pdf

*6:日本農業新聞(2020年4月3日)「新型コロナ拡大で食料生産国 自国優先し輸出制限」https://www.agrinews.co.jp/p50452.html

*7:https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC0000000082#11 農薬の登録申請、つまり規制に関する条文は第三条など。条文で言う「農薬」は製剤のことで、「農薬原体」とは区別されています。また、同じ有効成分を使っていても、新しい製剤を開発したら都度登録申請が必要です。

*8:ADIとARfDのこと。詳しくは農林水産省「農薬の基礎知識 詳細」(https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tisiki/tisiki.html)参照。

*9:ADIの設定根拠となった実験に関する記述参照。一例として「審査報告書 アシノナピル」(https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sinsa/attach/pdf/index-39.pdf)p.42「(1)1 年間慢性毒性試験(イヌ)」、または「農薬評価書 アセタミプリド」(https://www.env.go.jp/council/10dojo/y104-29/ref02.pdf)p.27「(2)2 年間慢性毒性/発がん性併合試験(ラット) 」をご覧ください。

*10:Mesnage et al. (2014) Major Pesticides Are More Toxic to Human Cells Than Their Declared Active Principles (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3955666/), BioMed Research International

*11:木村—黒田純子「グリホサートの発がん性や健康障害」, p.7.

*12:環境省「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応― EXTEND 2010 ―」(http://www.env.go.jp/chemi/end/extend2010/extend2010_full.pdf)P.16.以下、引用(太字はブログ管理者)。
「環境省では、平成 22 年度より子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)に着手しているので、得られる知見を相互に参照しつつ、化学物質のばく露と影響の因果関係、エピジェネティクスとの関係等を総合的に把握することが重要である。このほか、発達段階や感受性の高い個体に対する影響の考慮や化学物質の複合ばく露による影響の把握の必要性も指摘されている。」

*13:農薬製剤だけでも4,000を超える種類があります。独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)「登録・失効農薬情報」(https://www.acis.famic.go.jp/toroku/index.htm)の「2. 用途別登録農薬の概要」の合算より。
 また、化学物質全体となると、天然・合成を合わせれば到底数え切れません。たとえば、20世紀に入ってから発表された化学物質は、米国の機関CASによるとすでに1億6千件を超えました。Chemical Abstracts Servise, Substances  (https://www.cas.org/about/cas-content)。しかも、毎年たくさんの化学物質が生まれるうえ、食べ物だけでなく空気や水からも化学物質を摂取しています。到底検査など追いつかないでしょう。

*14:人体実験ができないのは倫理的な問題によるものです。そのため、ADIの設定にあたっては、実験動物と人間・人間個人どうしの差を計算するための「安全係数」が使われています。
 また、もちろん動物には解毒機能が備わっていますが、解毒酵素の働きは種類(イヌかヒトか魚か等)や個人間でも差があると言われています。お酒に強い人と弱い人がいますが、それと同じことです。詳しくは日本環境化学会編著(2019)『地球をめぐる不都合な物質 拡散する化学物質がもたらすもの』講談社, p.214ff.をご覧ください。

*15:Bloomberg(2020年6月2日), Bayer Fights Jury Loss in Bid to Minimize Roundup Payoutshttps://www.msn.com/en-us/finance/companies/bayer-fights-jury-loss-in-bid-to-limit-cost-of-roundup-payouts/ar-BB14UbVW

*16:木村—黒田純子「グリホサートの発がん性や健康障害」JEPAニュース, ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議, 2019年12月, Vol.120 , p.2-7, p.3。以下、青字は引用。「グリホサートが阻害するシキミ酸経路は、細菌類にもあるため、有益な土壌細菌や人間の腸内細菌叢にも悪影響を及ぼす。」。なお、グリホサートの作用機序については宮川恒・田村廣人・浅見忠男編著(2019)『新版 農薬の科学』, 朝倉書店, p.124f. また、腸内細菌叢と免疫の関係についてはデイビッド・モントゴメリー+アン・ビクレー著、片岡夏実訳(2016)『土と内臓 微生物がつくる世界』, 築地書館がお勧めです。蛇足ですが、グリホサートには抗生物質としての特許もあります。Google Patents, Glyphosate formulations and their use for the inhibition of 5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthasehttps://patents.google.com/patent/US7771736B2/en

*17:European Commision, Neonicotinoids (https://ec.europa.eu/food/plant/pesticides/approval_active_substances/approval_renewal/neonicotinoids_en

*18:木村—黒田純子、小牟田縁、川野仁(2012)「新農薬ネオニコチノイド系農薬のヒト・哺乳類への影響」(http://www.asahikawa-med.ac.jp/dept/mc/healthy/jsce/jjce21_1_46.pdf)臨床環境21:46~56, p.52ff.参照。

*19:くわしくは経産省「POPs条約」(https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/pops.html)参照。また、近年のあらたな傾向については右記をご覧ください。梶原 夏子(2019)「「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」とプラスチック~条約発効から15 年が経過、新たな局面へ~」(https://www.nies.go.jp/kanko/news/38/38-4/38-4-04.html), 国立研究開発法人 国立環境研究所「特集 資源循環における随伴物質の環境影響評価と適正管理【環境問題基礎知識】」より。
 また、POPsに指定されている農薬が一体どんな状況をもたらしたか、興味のある方にはレイチェル・カーソン著、青樹簗一訳(1974)『沈黙の春』, 新潮文庫がお勧めです。